ローバーリング ツウ サクセス に記された B-P の心髄
―― THE ONLY TRUE SUCCESS IS HAPPINESS ――


 B-P の著書 Rovering To Success (1922) の論理展開の心髄部分といえるのが次の論述であると思います。B-P のこの考え方が礎となり、彼の論理構築に、そしてボーイスカウト実践の全般にわたり、命を吹き込むことができたのだと、私は思いました。


 THE ONLY TRUE SUCCESS IS HAPPINESS

 What is success?
 Top of the tree? Riches? Position? Power?
 Not a bit of it!
 These and many other ideas will naturally occur to your mind. They are what are generally preached as success, and also they generally mean overreaching some other fellows and showing that you are better than they are in one line or another. In other words, gaining something at another's expense.
 That is not my idea of success.
 My belief is that we were put into this world of wonders and beauty with a special ability to appreciate them, in some cases to have the fun of taking a hand in developing them, and also in being able to help other people instead of overreaching them and, through it all, to enjoy life - that is, TO BE HAPPY.
 That is what I count as success, to be happy. But Happiness is not merely passive; that is, you don't get it by sitting down to receive it; that would be a smaller thing - pleasure.
 But we are given arms and legs and brains and ambitions with which to be active; and it is the active that counts more than the passive in gaining true Happiness.


 唯一の真の成功とは幸福になることです

 成功とは何でしょう。
 組織のトップに立つことですか。富豪になることですか。地位を得ることですか。権力者になることですか。
 いいえ、まったくそのようなことではありません。
 そのような考えは、あなたがたの心に自然に生じてしまうものです。一般に、そのようなことが成功であると教えられています。また、仲間の中で抜きん出ることともいわれています。それはあなたが同僚や他の人々よりもまさっていることを見せつけるものです。言い換えれば、他人の犠牲・損失(expense)の上に獲得されるものです。
 そのようなものは私の考える成功ではありません。
 私が信じるところは …人間は、この驚異と美に満ちた世界に、それを正しく認識(appreciate)することができる(人間だけがもちうる)特別な能力を持って生まれてきたのです。それは、時には、この世界をよりよくすることに手を差し延べることが喜びになり、また、人々より抜きん出るのではなくその人たちを助けることができる能力でもあります。そしてそれらをとおして人生を楽しむことができるのです。――これこそが"幸福に至る途"なのです。
 これが私が幸福になることが成功であるとする根拠です。しかし幸福というものは単純な受身的態度で得られるものではありません。腰を降ろしている者が受け取れるものではないのです。そんなことで得られるものは(幸福よりも)小さなもので、――単なる愉快・快感(pleasure)でしかありません。
 私たち(人間)は積極的行動がとれるよう、腕、脚、頭脳そして志(ambitions)が(天より)授けられています。よって、真の幸福を得たとみなされるのは、受身的態度よりも積極的行動によるものといえるです。(舟橋訳)
 (参考:「ローバーリング ツウ サクセス」ボーイスカウト日本連盟 昭和42年初版発行(中村知氏訳) 20頁)


 B-P が礎としている中心的価値観念が、人間が持つ appreciate の能力とその発揮であり、その発揮として、この世の中をほんの少しでもよくすることができたとか、人を助けることができた、人の役に立った、人に幸福を分け与えることができたということを達成したときこそが真の幸福である(すなわち成功である)と説いているわけです。ここに現れている心髄は、B-P がスカウトに残したラストメッセージの趣旨にも通じていることに気づかされます。B-P は Happiness と述べましたが、日本人の感覚からすれば、充実感、達成感、成就感 に近い感覚のように思われます。

 《 appreciate : <人・ものの>よさがわかる,真価を認める;<…を>高く評価する.<文学・芸術などを>鑑賞する,おもしろく味わう.<物事を>(的確に)認識する;<事の重大さなどを>察知する.<細かい相違を>識別する.<…ということを>認識する,わかる.<人の好意などを>ありがたく思う,感謝する.<…ということを>感謝する.<財産・物品などが>(価格の点で)騰貴する,値上がりする(研究社新英和中辞典)等の意味がある。》



 人間というものは、本当のことを知れば、そしてそこで自分のどのような行動が求められているのかということに気づけば、心の奥底から、ムラムラと、それを行ってみたいという気持ちになるものです。このような気持ちは、自分が知ったこと、理解したことは、真理である、という自信があればあるほど強くなるものです。押しつけられた知識や、曖昧な判断能力しかない人は、決してそのような気持ちが生ずることはないでしょう。

 つまり、自分が生きている世界(私たちが目にし接することができるあらゆる社会現象・自然現象)を“appreciate”(正しく認識・評価)できる能力さえ持っておれば、おのずから自分が行うべきことを洞察・発見することができるのであり、これが真理だという自信があるから、それを(たとえ誰もやったことがないことであっても、人が面倒に思うようなことでも)自発的に実行することができるのです。その実行の過程で、たとえどんなに大きな困難が待ちかまえていたとしても、彼は「自分が行っていることは真理に通じている」という自信に支えられているので、彼の命が続く限り、それを実行することができるのです。

 自分が生きている世界を appreciate する → 自分に求められている行動が見えるようになる → 心の奥底の良心・使命感がくすぐられる → 自発的にその実行ができる(せずにはいられない) …すなわちこれが B-P の言う「奉仕(Service)」なのでしょう。

 人間は、自分たちが生きている世界を appreciate できる能力を養う必要があります。真理や真実を探求する精神を養う必要があります。

 しかし、B-P の著述にもあるように、B-P は、当時の学校教育の、何がなんでも競争を重視する風潮や、その中で育つ少年少女の精神的ひずみの現れに対して、並々ならぬ嘆きを表しています。そのような教育の中では、決してこの世界を appreciate できる能力は育成できません。そんな観点から、彼は、「広くものを見る」ことを学ぶ教育を創始しなければならないと思い至ったのです※。

 B-P 自身、当時の社会の問題ある状態を appreciate する中で、少年少女を正しい道に導く教育を開始しなければならないという意識にかられたからこそ、高齢でありながらも、職業上の地位を捨ててまでも、ボーイスカウト運動を開始することができたのです。彼自身、彼の信念としての「奉仕」(Service)を実践したのです。

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 ※ このことは、B-P の著書 SCOUTING FOR BOYS (Twenty-Eighth Edition,1953) の PART THREE PRINCIPLES AND METHODS の Education 内の論述、また The Scouter 誌に記された彼の主張等から読み取ることができます。

 To-day one of the worst faults in the nation is narrow sectional outlook ; authorities on all hands speak of the need of cheery good-will and co-operation as the antidote to most of our troubles.
 The common method of education does little in this direction. Indeed, unless due care is taken, it holds within it a certain danger, the danger of encouraging self-interest in the boy, regardless of or even in rivalry to, the interests of others. He is encouraged to be top of his class, to win prizes and scholarships for himself in competition with classmates, to be ambitious, to aim for the best things in life, without counterbalancing instruction in his duty to the State and in helpfulness and consideration for others.
 The result is that high-brow cults, class jealousies, industrial disputes, sectarian differences, addiction to sport, political and international rivalries, all exist and have their exaggerated values because men have never been taught to look wide, to see with their neighbour’s eyes, and to use in active practice their good-will and co-operation. This neglect is at the root of most of our troubles to-day, whether industrial, political, religious, social, or international.
 It is here, again, that Scouting can come in and help with its definite training in its sense of duty and service for others. It aims to give the boy a practical idea of the responsibilities of life that lie before him and endeavours to inculcate the practice of his religion in his everyday life and doings.
 ( SCOUTING FOR BOYS Twenty-Eighth Edition, 1953, p290)

 今日,国民の間の最悪の過誤は,狭い視野,セクショナルな見解にある。各界の権威者たちは,我々のトラブルの最良の解毒剤として快活な善意と協力の必要を説いている。
 普通の教育方法では,この方向に進むことは殆んど無力である。余程の注意を払わない限りそれは,ある種の危険を内に蔵する。少年の心に自分だけの利益を奨励したり,他人に無関心にさせたり,または他人の利益を敵視さえさせるような危険がこれである。彼はクラスの首席になり,賞品や奨学金を獲得しようとして級友と競争するよう奨励される。人生における最大のものに向つて野心を抱くのではあるが,これは国家に対するデューティや,他人に対する助力や思いやりを充分に教えてバランスをとることを忘れた教育方法である。その結果は,知育偏重,階級嫉視,産業争議,宗派争い,スポーツ耽溺,政争及び国際紛争などにあらわれ,全て誇張された価値をもつて現行されている。それは人々が,広くものを見ることや隣人の眼をもつて見ること,及び善意と協力とを積極的に用いることを教えられなかつたからである。今日,産業,政治,宗教,社会,或いは国際間に起こるトラブルの大部分は,どれもこれも,この不注意が根本の原因となつている。
 ここにおいて,スカウティングがデューティ感と,他人に対する奉仕観念による一連の訓練を以つて,これを救うため登場したことを繰返し述べたい。それは少年に,彼の前に横たわる生活に,責任感の実際的理念を与えることを狙いとし,そして彼の日常の生活と行動の中に彼の宗教の実行を諄々と説くべく努めている。
 (「スカウティング フォア ボーイズ」ボーイスカウト日本連盟 昭和32年初版発行(中村知氏訳本) 第3部 原理と方法 498頁)


 At present the country spends so many millions on education, that is on training its sons and daughters to be good, healthy, prosperous citizens, and if education successfully effected this result there would be little to say against it.
 But we have to look at the other side of the balance sheet as it actually exists.  Here we find that we spend an equal number of millions on punishing our “educated” people for failing to be the good citizens they ought to be, or on trying to remedy their defects in this direction.
 Prisons and police, poor relief and unemployed, aged poor and infant mortality, squalor, irreligion, seething discontent ― what a crop of tares for all our sowing of expensive seed!  All traceable more or less directly to the want of education ― not education in the three R’s, but education in high ideals, in self-reliance, in sense of duty, in fortitude, in self-respect and regard for others ― in one word, in those Christian attributes that go to make “Character,” which is the essential equipment for a successful career.
 Is this being looked to in the new scheme of education?
 In the Boy Scout Movement our aim is, as far as possible, so to shape our syllabus as to make it a practical form of character training, and to render it complementary to the scholastic training of the schools.
from “Education ― Debtor and Creditor” / The Scouter / October, 1913 / B.-P.'S OUTLOOK

 現在、国は、皆さんの息子さんや娘さんを、善良で、健康で、裕福な市民にするために、数百万という経費を教育に注ぎ込んでいます。そしてもしその教育の結果が成功裏に運んだならば、それに対して何も言うことはありません。
 しかし私たちは、収入のもう一方の側にある支出の現実を見なければなりません。“教育を受けた”にもかかわらず良い市民になることに失敗した人々のために、この方面の欠陥の治療に、必要であり腹立たしい何百万もの額の負担が強いられていることを私たちは見出します。
 刑務所、警察、救貧、失業、高齢貧困者、幼児死亡、不潔、無宗教、不満噴出 ― 私たちは高価な種をまいているにもかかわらず、どうしてこんな作物がなるのでしょうか! それは多かれ少なかれ、すべては直接教育の貧困にさかのぼります ― 三つのR(読み・書き・算術)の教育でなく、あるべきは、高い理想、自立心、義務感、不屈の精神、自尊心そして他者への敬意を育てる教育 ― すなわちキリスト教徒の属性を表す一つの言葉である“Character(品性・人格)”を作り上げていく教育であり、それは成功に導くための必須の機能であります。
 これは、(私たちの)新しい教育計画が期待されているということではないでしょうか。
 ボーイスカウト運動における私たちの目的は、人格(character)訓練の実際の形を作るための要目をできる限り具現化させることであり、これは学校で行われている知育偏重の(scholastic)教育の補完を目指すものです。(舟橋訳)

(2015.8.15)



    せいちゃんの ベーデン-パウエル研究
    @ ボーイスカウト運動についての諸考察 (2014.10.5)
    A スカウティング フォア ボーイズ に記された B-P の心髄 (2015.7.22)
    B 「隊長の手引」に記された B-P の心髄 (2015.8.14)
    C ローバーリング ツウ サクセス に記された B-P の心髄 (2015.8.15)
    D 「パトロール システム」に記されたフィリップスの心髄 (2015.9.26)
    E 進歩制度に託された B-P の心髄 (2015.10.14)
    F 信仰の奨励に託された B-P の心髄 (2015.10.12)
    G 野外活動に託された B-P の心髄 (2015.11.29)
    H スカウト運動に託した B-P の心髄 (2016.7.14)
    I “ちかい”と“おきて”に託した B-P の心髄 (2016.12.12)
    J ボーイスカウト研究 (1979.12.14)
    K ボーイスカウト実践記 (1980.4.28)
    L ボーイスカウト活動プログラムの紹介 (1998.6.20)



   参考までに
   ローバーリング ツゥ サクセス (やんちゃ隊の資料庫 ウェブサイト)
   <http://scout.o.oo7.jp/rts.pdf>
   ROVERING TO SUCCESS (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/rts.pdf>
   スカウティングフォアボーイズ日本語第27版電子ブック (兵庫県長谷川武彦氏ウェブサイト)
   <http://23.pro.tok2.com/~choraku/scoutingforboys/scoutingforboys.html>
   SCOUTING FOR BOYS (ウクライナ ドネプロペトロフスク スカウト協会ウェブサイト)
   <http://scouts.dp.ua/files/Scouting%20for%20Boys.doc>
   「ウルフカブス・ハンドブック」 ボーイスカウト日本連盟訳 (ボーイスカウト茨城県連盟ウェブサイト)
   <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/WCHB/WCHB.html>
   THE WOLF CUB'S HANDBOOK (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/wolfcubshandbook.pdf>
   「隊長の手引」 ボーイスカウト日本連盟訳 (ボーイスカウト茨城県連盟ウェブサイト)
   <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-1.html>
   <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-2.html>
   AIDS TO SCOUTMASTERSHIP (隊長の手引) ( ScoutMedia ウェブサイト)
   <http://media.scoutwiki.org/images/c/cd/Aids_to_Scoutmastership.pdf>
   SCOUTING AND YOUTH MOVEMENTS(スカウティング青少年運動)(ScoutsCan.comウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/scoutyouth.pdf>
   The Patrol System and Letters to a Patrol Leader (ScoutsCan.comウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/Patrol%20System.pdf>
   Constitution of the World Organization of the Scout Movement
   世界スカウト機構憲章 (世界スカウト機構ウェブサイト) <https://scout.org/node/6538>
   Fundamental Principles (基本原則) (カナダ Scoutdocs ウェブサイト)
   <http://scoutdocs.ca/Documents/Fundamental_Principles.php>
   世界各国の連盟ウェブサイトへのリンクページ (世界スカウト機構ウェブサイト)
   <http://www.scout.org/nso>




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