戦争責任等に関する件 幣原内閣閣議決定 (1945.11.5)

 戦争責任等に関する件                       〔幣原内閣〕    第一、一般通則  左の諸点に準拠し之を堅持すること  (1) 大東亜戦争は帝国が四囲の情勢に鑑み已むを得ざるに出でたるものと信じ居ること。  (2) 天皇陛下に於かせられては飽く迄対米交渉を平和裡に妥結せしめられんことを御軫念あらせられたること。  (3) 天皇陛下に於かせられては開戦の決定、作戦計画の遂行等に関しては憲法運用上確立せられ居る慣例に従はせられ、大本営、   政府の決定したる事項を却下遊ばされざりしこと。  (4) 日米交渉継続中に攻撃を加ふることを避けんが為日米交渉打切りの通告の通達方努力せること。  (注)当時帝国に加へられたる軍事的経済的圧迫等の実情に照し我方は自衛権を発動したるものにして開戦に関する海牙条約    の規定は阻却せられ得るものなりとの見解なりしこと。  (5) 宜戦の大詔は主として国民を対象とする対内的のものなること。  (6) 英国其他に関しては当時米国の英国其他の諸国との関係に鑑み之を分離し取扱うことを得ざりしこと。    第二、細則 一 陛下に関する説明  (1) 飽く迄日米交渉の円満妥結方を政府に御命令あらせられ最後の段階に至る迄之を御軫念あらせられしこと。  (2) 開戦の決定、作戦計画の遂行等に付ては統帥部、政府の決定したるものを憲法上の慣例に従はせられ之を却下遊ばされざり   しものなること。  (3) 真珠湾攻撃以前に於て海軍幕僚長より初期作戦の大網に付きては聴き及ばれたるも実施細目に関しては報告を受け居られざ   りしこと。  (4) 右作戦計画を実施に移すに際しては武力行使に入るに先立ち米国政府に対し外交上の措置を講ずるものと了解遊ばされ居り   しこと(ただし右通告が開戦に関する海牙条約の規定する宣戦布告の通達たるを要するや将又日米交渉打切りの対米通告にて   充分なりしやに関しては厳格に法律的にほ御承知相成り居らざりしものなること)。  (5) 宜戦の詔書は昭和十六年(一九四一年)十二月八日午前十一時三十分御署名相成られたこと(ただし右詔書は国民に開戦が   已むを得ざるに出でたるものなることを御垂示相成られんが為のものにして、主として国内的意義を有するものとなること)。 二 内閣総理大臣に関する件  (1) 大東亜戦争は当時帝国に加へられたる米英等の軍事的経済的圧迫等の実情に照し自衛上已むを得ざるに出でたるものなりと   信じ  (2) 開戦の決定に関しては大本営政府連絡会議、閣議及御前会議を経て議定せられたること。  (3) 初期作戦の大綱は両幕僚長より奏上せられ居り内閣総理大臣は之を知悉し居りたること(他の連絡会議構成員には軍事機密   なるを以て全然之を示し居らざりしものなり)。  (4) 政戦両略の統合は連絡会議によりて行はれ右に関する内奏は主として内閣総理大臣之に当りたること。 三 陸海軍両幕僚長に関する件  (1) 開戦の決定には大本営政府連絡会議の構成員として関与せること。  (2) 初期作戦の大網のみを陛下に奏上したること(右大綱の程度は陸海軍により異る、海軍の大綱は「ハワイ」も含まれ居る旨   を奏上したる程度なること)。 四 陸海軍両大臣に関する件  (1) 開戦の決定には大本営政府連絡会議の構成員として関与せること。  (2) 初期の作戦計画の構想に関しては夫々両幕僚長より説明を聴き及びあること(攻撃地として「ハワイ」も含まれ居ることは   承知し居たるものなり)。 五 外務大臣に関する件  (1) 日米交渉の円満妥結方陛下の御思召を体し極力之が達成に努めたるも遂に不成功に終りたること。  (2) 開戦の決定に関しては大本営政府連絡会議の構成員として関与したること。  (3) 作戦計画に関しては全然通報を受け居らざりしも開戦の月日に関しては推察はし居りしこと。  (4) 武力発動前日米交渉打切りの対米通告の事前通達方手配したること。  (注)右通告電報が在米日本大使館に於て解読及整備までに意外の長時間を要し米国政府への通達遅れたること。  (5) 対英関係等に付ては当時の米英関係等に鑑み最後の対米通告及武力発動が即時米国政府より英国政府等に伝達せらるべき状   態に在りたることと予期し居りたること。

 《「資料 日本現代史2―敗戦直後の政治と社会(1)」(粟屋憲太郎編,1980.10.30第1刷,大月書店発行)から引用、原文縦書き》

 2005.5.15 登載
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