改正刑法草案(昭和47年 法制審議会刑事法特別部会)抜粋

第一編 総則  第十六章 保安処分


第百一条(保安処分の種類・言渡)
1 保安処分は、次の二種とし、裁判所がその言渡をする。
 一 治療処分
 二 禁絶処分
2 保安処分は、有罪の裁判又は第十六条第一項(責任能力)に定める事由による無罪の裁判とともに、これを言い渡す。但し、保安処分の要件が存在するときは、行為者に対して訴追がない場合においても、独立の手続でその言渡をすることができる。

第百二条(治療処分)
 精神の障害により、第十六条第一項(責任能力)に規定する能力のない者又はその能力の著しく低い者が、禁固以上の刑にあたる行為をした場合において、治療及び看護を加えなければ将来再び禁固以上の刑にあたる行為をするおそれがあり、保安上必要があると認められるときは、治療処分に付する旨の言渡をすることができる。

第百三条(保安施設への収容)
 治療処分に付せられた者は、保安施設に収容し、治療及び看護のために必要な処置を行なう。

第百四条(施設収容の期間)
1 治療処分による収容の期間は、三年とする。但し、裁判所は、必要があると認めるときは、二年ごとにこれを更新することができる。
2 前項但し書きの規定による収容期間の更新は、二回を限度とする。但し、死刑又は無期もしくは短期二年以上の懲役にあたる行為をするおそれが顕著な者については、この限りでない。

第百五条(禁絶処分)
 過度に飲酒し又は麻薬、覚せい剤その他の薬物を使用する習癖のある者が、その習癖のため禁固以上の刑にあたる行為をした場合において、その習癖を除かなければ将来再び禁固以上の刑にあたる行為をするおそれがあり、保安上必要があると認められるときは、禁絶処分に付する旨の言渡をすることができる。

第百六条(保安施設への収容)
 禁絶処分に付せられた者は、保安施設に収容し、飲酒又は薬物使用の習癖を除くために必要な処置を行う。

第百七条(施設収容の期間)
 禁絶処分による収容の期間は、一年とする。但し、裁判所は、必要があると認めるときは、二回に限りこれを更新することができる。

第百八条(仮退所)
 保安施設に収容された者は、何時でも、行政官庁の処分によつて、仮に退所させることができる。

第百九条(退所)
 保安施設に収容された者について、第百条又は第百三条の規定による期間が経過したときは、これを退所させなければならない。

第百十条(療護観察及び再収容)
1 前二条の規定により、仮退所を許された者又は退所した者は、これを療護観察に付する。療護観察の期間は、二年とする。
2 仮退所を許されて療護観察に付せられた者について、再収容を必要とする状況があるときは、行政官庁は、これを再び保安施設に収容することができる。
3 前項の規定による再収容の期間は、第百条又は第百三条の規定によつて定められた期間から仮退所前の収容期間を控除した期間とする。但し、これらの規定による更新を妨げない。

第百十一条(保安処分の終了)
1 療護観察に付せられた者について、保安処分を執行する必要がなくなつたときは、行政官庁の処分によつて、保安処分の執行を終つたものとすることができる。
2 仮退所を許されて療護観察に付せられた者が、再び保安施設に収容されることなく、療護観察の期間を経過したときは、保安処分の執行を終つたものとする。退所後、療護観察に付せられた者が、療護観察の期間を経過したときも、同じである。

第百十二条(刑と保安処分との執行の順序)
 懲役、禁固又は拘留にあわせて保安処分に付する旨の言渡を受けた者に対しては形を先に執行する。但し、裁判所は、その言渡に際し、保安処分を先に執行することを命ずることができる。

第百十三条(執行順序の変更)
1 懲役又は禁固の執行を受けている者について、保安処分の執行を必要とする状況があるときは、裁判所は、刑の執行を停止して、保安処分を執行することを命ずることができる。
2 懲役又は禁固につき仮釈放を許された者について、保安施設への収容を必要とする特別の状況があるときは、裁判所は、保安施設に収容することを命ずることができる。この場合にも、仮釈放の期間は、その進行を停止しない。
3 保安処分の執行を受けている者について、刑の執行を必要とする状況があるときは、裁判所は、保安処分を解除し、又はその執行を停止して、刑を執行することを命ずることができる。

第百十四条(刑と保安処分との代替)
1 刑の執行を受けた者について、保安処分を執行する必要がなくなつたと認められるときは、裁判所は、保安処分を解除することができる。
2 保安処分の執行を受けた者について、刑を執行する必要がなくなつと認められるときは、裁判所は、刑の全部又は一部の執行を免除することができる。

第百十五条(執行の制限)
1 保安処分の言渡が確定した後、三年間その執行をしなかつたときは、裁判所の許可を得なければ、これを執行することができない。
2 刑にあわせて保安処分に付する旨の言渡を受けた者については、刑の執行のため刑事施設に拘置中又は収容中の期間は、前項の期間に算入しない。






保安処分の手続に関する要綱案
(一) 独立の保安処分請求を認める範囲
  次の場合には、独立の手続で保安処分の請求をすることができる。
 (1) 行為時に責任無能力であつたため、訴追しない場合
 (2) 告訴、告発又は請求を待つて論ずる罪につき、告訴等がないため、訴追することができない場合
 (3) 訴追を必要としない場合
(二) 手続の大綱
  保安処分の手続は、以下に特則がある場合のほか、おおむね刑事手続の例による。
(三) 保安処分言渡前の身柄の措置
  保安処分言渡前の身体の拘束については、その用件、収容施設等につき、対象者が精神障害者であることにかんがみ、適当な措置を考慮するものとする。この措置については、精神科医を関与させるものとする。
(四) 保安処分の請求
 1 通常手続において、検察官の請求がなくても保安処分を言い渡すことができることとするかどうかについては、積極、消極の両案が考えられる。
 2 独立手続は、検察官の請求によつて開始する。請求の方式は、公訴提起に準ずる。
(五) 弁護人
  保安処分の適用が予想される被告事件の手続及び独立手続においては、弁護人がなければ開廷することができない。弁護人がないときは、国選弁護人を付する。
(六) 公判期日における被告人または被請求人の出頭
  保安処分に関する審理は、被告人または被請求人が心神喪失の状態にあるときは、その出頭を待たないで行なうことができる。
(七) 保安処分の要否に関する資料
 1 検察官及び被告人又は被請求人は、保安処分の要否に関する証拠の取調べを請求することができる。
 2 保安処分は、被告人または被請求人の精神状態等に関する鑑定を経たうえでなければ、その言渡をすることができない。
 3 裁判所は、請求により又は職権で、被告人又は被請求人の経歴、環境その他の事項につき、専門的知識を有する者に調査を行なわせることができる。
 4 保安署部の要否に関する証拠の取調べについては、被告人または被請求人の利益の保護をはかるため、審判手続の非公開あるいは準備手続の利用等の方法を考慮するものとする。
(八) 手続の移行
 1 裁判所は、相当と認めるときは、検察官の請求により、通常手続から独立手続へまたは独立手続から通常手続への移行を命ずることができる。
 2 移行前の手続でした訴訟行為は、移行後の手続においてもその効力を有する。
(九) 裁判及び上訴
 1 保安処分に付し又は付さない旨の裁判は、判決で行う。
 2 検察官及び被告人又は被請求人は、前項の裁判に対し、通常の方法による公訴及び上告をすることができる。
 3 独立手続において保安処分に付しまたは付さない旨の裁判が確定したときは、さらに公訴を提起することができない。



【参考資料集】
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