ひとりごとのつまったかみぶくろ



道州制論議に接して



 平成17年は、地方制度調査会が現行の都道府県に替わる新しい道州の区分割の案を提唱したなど、国内の各地各分野で道州制の論議が深まり、一定の進展をみた年でした。そのような情勢のもと、この年、道州制についての学習や論議を試みるワークショップに参加する機会を得ました。そのワークショップとしては、一定の方向付けがなされ、それなりの結果はあったのですが、ここではそれに触れません。ワークショップの活動の中で、素人ながら、私自身の発言や感想のためにしたためたメモがありますので、ここに載せることにしました。これらは、このワークショップ参加の時点の認識や主張ですが、今後の学習等によってきっと変わっていくだろうと思います。その時から見れば、きっと、「このころはこんなことを考えていたんだなあ」ということになると思いますが、その時のレビューの材料になることを期待して、載せることにしました。


 【ワークショップに参加して】

 ワークショップに参加して感じたことを申し上げれば、国レベル、また全国いたるところで、道州制に関する論議の場が設けられ、各人の主張が飛び交っている様相がありますが、その割には、機運や条件、切実性は整っていないようだという印象を受けました。道州制なんか本当に実現するのかな、という思いが正直なところです。

 明治21年以後、ほとんど区域が変わっていない現行都道府県の実態は、どう考えても不合理と感じます。これはやがて修正又はなくなっていくものであろうと直感はするわけですが、その後の姿は道州制か、というと私は懐疑的です。

 道州制を考える場合、地方制度調査会の答申(H15.11.13)もうたうように、基礎自治体と広域自治体の二階構造を前提にしなければならないわけです。しかし私は、基礎自治体が適正規模になれば、広域自治体は不要と思っています。

 それの実現に向けての自分なりのシナリオを書いてみました。


 @昭和31年に廃止された特別市制度を復活させ、その力量を有する政令指定都市等大規模都市を都道府県から独立した特別市に指定する。

 A一般の市町村には、地方自治体が住民福祉の増進を図る団体(地方自治法第1条の2第1項)と位置付けられているとおり、それを担う事業整備を求め、それらが安定して経営できる規模になるまでの市町村合併を推進する(現行中核市に付与される保健所設置や民生行政・都市計画・環境保全等の機能が担える規模=人口35万程度が目安となるか)。

 B特別市や市町村のレベルでは対応困難な事務(現行都道府県が担っている事務や広域警察・広域交通ネットワーク等)については、現行の都道府県の単位でも不合理又は対応困難なものがあり、その枠組みとは別に、それぞれの行政課題単位で広域連合を結成し、そこに都道府県事務の権限移譲もしくは事務の創設を行う(つまり、事務の組み合わせにより圏域の異なった複数の広域連合に属することもありえる…○○経済圏広域連合とか○○川流域広域連合など)。

 C以上を通して都道府県機能の縮小化を図り、機能をなくした都道府県は廃止、と導いていく。


 特に@の過程を経なくても、A以降は、現行地方自治法の規定内で推進できる条件はあると思われます。現実にこれが進まないのは、市町村の自立意識や地方自治の意識がまだまだ疎いことによるとも思われます。

 これを打破するアイデアのひとつとしては…、ちょっと乱暴なアイデアですが、例えば社会福祉法や介護保険法などがそうであるように、市町村に能力以上の事業整備の義務を負わせる法律を沢山作れば良いでしょう。弱小規模の市町村のままでは対応困難とわかっているわけであり、そのようなところは、合併せざるを得ないでしょう。


 【適正な基礎自治体の規模について】

 適正な基礎自治体の規模について、私の考え方の説明の補足をします。

 私の場合、法人(団体・機関)としての地方自治体に何をさせるか、どのような条件が整えばそれが安定して効率よく経営できるか、という観点から建てた考えです。やはり財政が最大のファクターであることは否めないのではないかと思っています。何かとてつもないスポンサーが存在するのであれば申し分ないのですが、住民自らがスポンサーという前提条件に立って考察すればこの結論になったという筋です。

 現在国内に人口30万人台の自治体(市)が、26程あると認識していますが、それぞれいろいろな評価基準を設けてそれらの状況をみると、このあたりの規模の自治体が最適ではないかなと思えます。

 大規模自治体であることによるメリットとデメリット、小規模自治体であるが故のメリットとデメリットは必ずあるわけで、これらの中から、天秤にかけながら、いかに中庸を導くかということが大切な作業ではないかなと思っています。


 【市町村・特別市・都道府県・国の役割分担】

 市町村

 市町村は、基礎的な地方公共団体として、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理するものとする。

 ただし、広域にわたるもの(地方の大規模な総合開発計画の策定、主要な統計調査、治山治水事業、電源開発、公衆衛生の水準の維持、広範囲な環境保全整備など)及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの(規模が大きいため、大きな財政カを必要とする事務、性質上、高度な技術力や専門的な能カを必要とする事務など)は、都道府県が処理する。

 複数の市町村で組織した広域連合は、地方自治法が定める広域連合に与えられた権能を持つことにより、都道府県の事務の一部を受任する条件を得ることになる。


 特別市

 大規模都市で、都道府県事務の処理の能力を有すると認められるものについては、特別市に指定し、都道府県から独立し、併せてその事務を処理する。

 特別市の区域を越える広域にわたるものの効率的な処理のため、他の市町村又は都道府県と広域連合を組織することができる。


 都道府県

 都道府県は、市町村又は複数の市町村で組織した広域連合に移譲した事務を除いて、広域にわたるもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを、引き続き処理する。

 複数の都道府県で組織した広域連合は、地方自治法が定める広域連合に与えられた権能を持つことにより、国の事務の一部を受任する条件を得ることになる。


 

 国際社会における国家としての存立にかかわる事務(外交、防衛、通貨、司法など)

 全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務(公正取引の確保、生活保護基準、労働基準など)

 全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施に関する事務(公的年金、宇宙開発、骨格的・基幹的交通基盤など)


 【地方自治の歴史的意義】

 「地方自治は民主主義の学校」と、イギリス人のJ・ブライスは申していましたが、当のイギリスでは、この考えは卒業し、既に次の時代に進んでいると私は思っています。現在のイギリスで、人々の主張を集約し、それを法制度に反映させる力を最も持っているのは、当事者団体ではないかと思っています。例えばイギリスの障害者のための制度などは私たちから見て目を見張るものがありますが、障害者の父母の会等の団体の運動や圧力がそうさせたと見ています。「当事者団体運動こそが民主主義の学校」の時代のようにも思えます。

 GLA(Grater London Authority)が2000年に発足しましたが、その市長選挙の低い投票率などの様子を見ると、地方自治の時代は終わったのかも知れません。


 【新しい社会システムとしての道州制】

 「道州制」という名称だけを聞くと、都道府県の合併、または都道府県の再編成のことか、と思ってしまう節がありますが、この学習を通して、こんなレベルのものではないということに気づくことができました。すなわち、キーワードは「補完性の原理」であると受け止めました。道州制とは、現行の行政機構のシステムを手直しし、新たに補完性の原理を貫徹させた社会システムを構築しようとする主張であると読み取ることができました。

 今日の日本における、地方機構の成立は、廃藩置県を起点として、当初は、中央集権機能実現のための補助機関として、府県や市町村が設置、整備されたと理解しています。それからやや遅れて、しかし並行して台頭してきた、民主主義、地方自治、地方分権の思想や機構のアイデア、それに戦争の結果による変革を契機として、それらに基づくシステムを取り入れる形で変化してきました。その変革が進みつつある発展途上の一段階として、今日のスタイルがある、と私なりに整理しています。

 日本においては、未だ本当の意味の民主主義や地方自治、地方分権の機構が完成しきれていないのであるが、今日、既に新しい時代の地方機構、すなわち補完性の原理を導入した社会システムへの移行に向けて脱皮をしようとしている時と見ることができます。

 「道州制」とは、補完性の原理が貫かれている社会システムの追求のことであり、地方自治や地方分権の追求に力を注いできた近代行政の志向とは角度の異なった営みです。

 行政における補完性というと、本来の行政は市町村が行う、そこでできないものを都道府県が担い、その都道府県でできないものを国が担当するというイメージですが、道州制論議で扱われている補完性の概念はもっと深いところまで貫いていると思います。

 すなわち、本来、個人の生活を実現させるのは個人ないしは基礎的社会関係である家族の営みです。しかしながら、個人や家族の単位では実現できない生活課題があり、その解決のために力を貸すのが、市場(商品売買、就労)、コミュニティ、会社等職場組織(福利厚生や健康管理の機構やフィランソロピー等)、学校、協同組合、宗教団体、NGO、当事者団体、等ということができます。しかし、それらの力を借りても実現できないものや、それらだけでは混沌としてしまうことが出てきます。それらの解決については、行政機構である地方自治体が担います。そして地方自治体でも解決しきれないことは、最終的に国が補完するという関係です。

 このように論じると、「道州制」というネーミングがそぐわない感じがしてしまいますが、今の段階においては、とりあえず割り切ることにしましょう。(2006.3.14)


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